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ASDとADHDは合併する|両方の特性をあわせ持つ子ども・大人への理解と支援
ASDとADHDは合併する|両方の特性をあわせ持つ子ども・大人への理解と支援
「自閉スペクトラム症(ASD)と診断されたけれど、忘れ物や不注意も目立つ」 「ADHDの診断で治療を始めたのに、対人関係の困りごとは変わらない」 「こだわりが強いのに、じっとしていられない。どちらの特性なのか分からない」
発達障害について調べると、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)は別々のものとして説明されていることが多く、「どちらか一方に当てはめなければいけない」と考えてしまいがちです。
しかし実際には、ASDとADHDは高い頻度で併存します。 そして両方の特性をあわせ持つ場合、それぞれ単独の場合とは異なる困りごとが生じ、支援の組み立て方も変わってきます。
この記事では、ASDとADHDが併存するとはどういうことか、なぜ見落とされやすいのか、どのような支援が有効かについて解説します。
そもそも、ASDとADHDは同時に診断できるのか
結論から言えば、できます。
ただし、これは比較的新しい考え方です。かつての診断基準であるDSM-Ⅳ(1994年)では、ASDがある場合はADHDと診断してはならないという除外規定が設けられていました。そのため長い間、両方の特性が明らかにあっても、診断名はどちらか一方に絞られてきたのです。
この規定が撤廃されたのが、2013年に公開されたDSM-5です。現行のDSM-5-TRでも同様で、現在はASDとADHDを併記して診断することが正式に認められています。
つまり、「両方の特性がある」というのは例外的な状態ではなく、診断基準上も想定された、ごく一般的なあり方なのです。
どのくらいの割合で併存するのか
研究によって幅がありますが、報告されている数値の目安は次のとおりです。
- **ASDと診断された人の約50〜70%**に、ADHDの特性がみられる
- **ADHDと診断された人の約20〜50%**に、ASDの特性がみられる
いずれの立場から見ても、決して少数派ではありません。近年では、両方をあわせ持つ状態を指す通称として「AuDHD(オーディーエイチディー)」という言葉が当事者コミュニティを中心に使われることもあります(正式な診断名ではありません)。
なぜ「どちらか一方」と見なされやすいのか
ASDとADHDが併存していても、片方だけの診断で止まってしまうことがあります。理由はいくつかあります。
1. 目立つほうの特性に注目が集まる
多動や衝動性は周囲から見えやすいため、幼児期にはADHDとして先に気づかれることがよくあります。一方で、対人関係の質的な違いやこだわりは、集団生活が複雑になる小学校中学年以降に表面化することが多く、ASDの評価があとから必要になるケースがあります。
逆に、早期に言葉の遅れやこだわりでASDと診断された場合、その後の不注意や段取りの困難が「ASDの特性の一部」として説明されてしまい、ADHDの評価が行われないこともあります。これは**診断的覆い隠し(diagnostic overshadowing)**と呼ばれる現象です。
2. 特性が互いに打ち消し合って見えることがある
両者は、一見すると正反対に見える特徴を含んでいます。
| ASDの傾向 | ADHDの傾向 | |
|---|---|---|
| 変化への態度 | 同一性を好む・予定変更が苦手 | 新しい刺激を求める・単調さが苦手 |
| 注意の向け方 | 興味の対象に深く没頭する | 注意が移りやすい・散漫になる |
| 行動 | 慎重・パターン化 | 衝動的・思いつきで動く |
両方あわせ持つ場合、これらが同じ人の中で共存します。「こだわりが強いのに飽きっぽい」「同じ手順にこだわるのに、その手順を忘れる」といった、一見矛盾した姿になるため、「どちらにも完全には当てはまらない」と判断され、診断が保留になってしまうことがあります。
3. 女性・女児では特に見落とされやすい
ASD・ADHDのいずれも、女性では多動が目立ちにくく、周囲に合わせて振る舞う「カモフラージュ」が働きやすいことが知られています。そのため成人になってから、あるいは二次的な不調をきっかけに初めて評価されるケースが少なくありません。
併存すると、どのような困りごとが増えるのか
ASDとADHDが併存する場合、それぞれ単独の場合と比べて、次のような傾向が報告されています。
実行機能の負荷が大きくなる
計画を立てる、優先順位をつける、切り替える、といった実行機能の困難が重なりやすく、**「やるべきことは分かっているのに、着手も完了もできない」**状態が生じます。ASDの「見通しが立たないと動けない」特性と、ADHDの「先延ばし・段取りの困難」が同時に働くためです。
感覚の問題が強く出やすい
音、光、におい、肌触りなどへの過敏さ・鈍感さは両方に関連し、併存例ではより顕著になることがあります。教室のざわめきや蛍光灯が強い負荷になり、集中の困難をさらに悪化させます。
適応スキルが伸びにくい
知的な能力が高くても、日常生活の身辺自立や社会的な手続きといった適応行動が伸びにくく、「できるはずなのにできない」というギャップが周囲にも本人にも理解されにくくなります。
二次障害のリスクが高い
不安症、抑うつ、睡眠の問題、自己肯定感の低下などを併発するリスクが、単独診断より高いことが複数の研究で示されています。叱責される経験が積み重なりやすいことが背景にあります。
支援と治療の考え方
まず環境を整える
ASD・ADHDのいずれにも共通して、本人の努力を求める前に環境を調整することが出発点です。
- 予定を視覚的に示す(見通しの確保:ASD特性への配慮)
- 手順を短く区切り、一度に一つずつ提示する(ADHD特性への配慮)
- 感覚刺激を減らす(席の位置、イヤーマフ、照明の調整)
- 口頭指示だけに頼らず、メモ・チェックリストで補う
- 変更が生じる場合は、可能な限り事前に予告する
ASD特性への配慮(構造化・予告)と、ADHD特性への配慮(短時間化・視覚化)は、両立できます。むしろ組み合わせることで効果が高まります。
心理社会的支援
保護者の方が関わり方を学ぶペアレント・トレーニング、ソーシャルスキルトレーニング(SST)、認知行動療法などが用いられます。学校・職場との連携も欠かせません。
薬物療法の位置づけ
ASDの中核特性そのものを改善する薬はありません。 一方、ADHDの不注意・多動・衝動性に対しては有効性の確認された薬剤があり、日本ではメチルフェニデート徐放製剤、アトモキセチン、グアンファシン、リスデキサンフェタミンメシル酸塩が承認されています。
ここで知っておいていただきたいのは、ASDを併存するADHDでは、中枢刺激薬への反応がやや限定的で、副作用(易刺激性の増強、食欲低下など)が出やすい傾向があるという報告があることです。そのため、少量から慎重に開始する、あるいは非刺激薬を優先するなど、併存を踏まえた調整が必要になります。
また、ASDに伴う強い易刺激性(かんしゃく、自傷、攻撃性)に対しては、リスペリドンやアリピプラゾールが日本国内で保険適用となっています。これらは中核特性ではなく、周辺の激しい症状を和らげる目的で使用されるものです。
いずれの薬剤も、環境調整と心理社会的支援を土台としたうえで、必要性を検討するという順序が基本です。効果と副作用について十分にご説明したうえで、ご本人・ご家族と相談しながら判断いたします。
よくあるご質問
Q. すでにADHDと診断されていますが、ASDの評価も受けられますか? A. はい。他院での診断歴がある場合も、これまでの経過やお困りの内容を伺い、あらためて発達特性全体を評価することが可能です。診断名を増やすこと自体が目的ではなく、いま生じている困りごとを説明できる枠組みを整えることが目的です。
Q. 診断が変わったり増えたりすると、これまでの治療は無駄になりますか? A. そのようなことはありません。併存が明らかになることで、これまで効果が頭打ちだった部分に別のアプローチを加えられるようになります。支援の方向が広がると考えていただければと思います。
Q. 大人になってから診断されることもありますか? A. あります。学生時代は周囲のサポートや構造化された環境で何とかなっていた方が、就職や結婚、育児といった環境の変化をきっかけに困難が顕在化し、成人後に初めて評価に至るケースは珍しくありません。
Q. 診断がつかないと支援は受けられませんか? A. 診断の有無にかかわらず、環境調整や関わり方の工夫は今日から始められます。まずは「何に困っているか」を整理するところからご相談ください。
おわりに
ASDとADHDの併存は、「珍しい複雑なケース」ではなく、発達特性のごく一般的なあり方の一つです。
大切なのは、診断名を確定させることそのものではなく、その人の中で何と何が重なって困難が生じているのかを丁寧にほどいていくことです。両方の特性を前提に組み立て直すことで、これまで届かなかった支援が届くようになることは、決して少なくありません。
「どちらの説明もしっくりこない」「治療しているのに困りごとが減らない」と感じておられる方は、どうぞ一度ご相談ください。
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